カウンセラーブログ

結婚相談所物語 vol.4

2023.02.1

 

結婚相談所物語の続編(vol.4)です。1作目~3作目をお読みで無い方は、まずはそちらををお読み頂くことをお薦めさせて頂きます。

 

 

鈴木さんのお母さんは現在64歳。

 

鈴木さんが7歳お母さんが27歳の時に、お父さんが交通事故で他界されました。

 

お父さんとその父、鈴木さんにとってはお祖父さんが印刷所を経営して切り盛りしていましたが、突然のお父さんの他界によって、当時27歳で印刷の事は何も分からないお母さんが義理の父親と一緒に一生懸命に印刷所を守ってきたそうです。

 

その義理の父親(鈴木さんのお祖父さん)も今から10年前に他界されて、現在は経営内容を縮小して数人の社員さんと共にお母さんが社長として会社を切り盛りされています。

 

お祖母さんは現在84歳で会社の経理を手伝いながら、元気に過ごされています。

 

鈴木さんは3浪して大学を卒業後、大阪のデザイン会社に就職し、その後お祖父さんが他界された後に家業を手伝うために実家に戻って印刷会社に入社しましたが、とにかくお母さんと意見が全く合わず喧嘩別れのような状態で、5年前に家を出て、独立して自身のデザイン会社を立ち上げました。

 

最近ようやく自身のデザイン会社が軌道に乗り時間的余裕もできた為、婚活に力を入れる事になったという状況です。

 

お母さんとの話し合いは鈴木さん抜きで、私とお母さんだけで行わせて頂く事を了承頂いて、印刷会社の応接室でお会いいただける事になりました。

 

お母さんの印象は、鈴木さんから聞いていた内容とは違って比較的穏やかな印象でした。

 

「この度は、急な連絡でお時間をつくって頂きまして申し訳ありませんでした」

 

「那須さんの事は尚典からも聞かせてもらっています。言いにくい事もハッキリ言ってくれるので信頼できる人だって言ってました。ホントに尚典がお世話になりましてどうもありがとうございます」

 

私はもっと閉鎖的な対応をされるものと思い込んでいましたので意外に感じつつ、問題解決にはこちらの意見を優先せずにお相手の意見をしっかりと聞き込むという、基本姿勢に則って、とにかくお母さんの意見をしっかりとお聞きするようにしました。

 

「ご主人様は尚典さんが小さい頃に亡くなられたそうですね。まだお母さんもお若い時ですし、大変なご苦労がお有りだったでしょうね」

 

「そうなんです。実は当時会社の状況もあまり良い状況じゃなかったんですね。ですから私も義父と一緒に立て直すのに必死でした。尚典には母親らしい事が何もしてやれなくて、父親もいませんし、なんとかちゃんとした人間に育って欲しいと思って、心を鬼にして甘やかさずに接してたんですけど、中々思うように接してやれずになんだか捻くれた性格になってしまったように思うんです」

 

「そうでしたか、お気持ちお察しします。私もこの仕事をしていて思うんですけど、結婚も親になる事も誰もが初めての体験ですし、戸惑いしかないですよね。しかもご主人が他界されていたら、相談できる方もいなくて、本当に苦労なさった事と思います。」

 

「尚典は子供の頃から、あまり外に出かけたがらない子で家の中でばかり遊んでいました。

 

ですから友達もいませんし、何の取り柄も無くて、結婚生活も上手くやっていけるのか心配なんです」

 

「ホントに仰る通りですよね」

 

その時、お母さんは顎を突き出して厳しい視線を私に向けました。

 

「…いやいや、何の取り柄も無いという事はありませんよ。立派にデザイン会社も経営されているじゃないですか」

 

お母さんは、静かに2度頷いて

「あんなに捻くれた性格に育ってしまったのも、私の育て方が悪かったんだと思うんですけど…。実は、尚典は亡くなった主人にとてもよく似ているんです。亡くなった人の事を悪く言いたくは無いんですけど、主人も尚典と一緒で自分勝手で、相手がどのように感じているのかって事を全く考慮しない性格だったんです。」

 

「そうでしたか。でも、尚典さんはとても素直な性格ですよね」

 

「そうなんです。あの子の父親も一緒でとっても素直な人で、尚典も素直なところは父親譲りで、その点はあの子の良いところだと思うんです」

 

「ホントに。唯一良いところですね」

 

お母さんは、又顎を突き出して

「唯一は言い過ぎじゃありませんか!」

 

私は慌てて姿勢を正して

「そ、そうですよね。唯一って事はありませんよ。優しいですし。他にもほら、えーっと、えーっと…。と、とにかくですね。お母さんとしては、尚典くんが結婚をして人並に幸せな家庭を築いてもらいたいと思っていらっしゃるんですよね!」

 

「もちろんです!」

 

「今日はその事を確認させて頂きたかったんです」

 

「私だって、尚典には幸せになって欲しいと思っていますよ。でもね、あの子ってホントに我が儘で自分勝手でしょう。結納の事だって、何の相談も無しに勝手に日程まで決めてきて、後はよろしくねって言われても、私も結納なんかどうすればいいのか全く分かりませんし、つい頭にきて、勝手に日程まで決めてくるのはおかしいでしょうって怒ったら、そんなの親の役目でしょうが、親らしい事を殆どして無いんだし、それくらいしてくれてもいいだろうって言うじゃないですか!もう頭にきて、頭にきて。」

 

「そうだったんですか。それは仰る通り頭にきますよね」

 

「そうなんです。私も意地になってしまってるところが良くないんですけど、あとはよろしく。なんて勝手に言われても、そんなのどうしたら良いか分からないじゃないですか。それで本を見て調べてみたんですけど、結納にはまず結納金が必要でしょう。相場が100万円くらいって書いてあったので、尚典に言ったら、そんなにいらないでしょう。10万円くらいでいいんじゃ無いのって言うんです。それで、あんたバカなんじゃないの、10万円なんか少なすぎるわよ!て言って、あんたそもそも結納がどういうものなのか解ってるの?って聞いたら。よく知らないって言うんです。それで私も又頭にきて、あんたねー、結婚を舐めてるでしょう!そんななんでも人任せでいい加減にしてたら上手くいく訳が無いよって言ってやったんです」

 

「そうだったんですか。僕が尚典さんから聞いていた話とは随分違いますねー。」

 

「多分あの子の事だから、私が一方的に我が儘を言ってるとでも言ってたんじゃないですか?」

 

「確かに尚典さんのいい加減なところは、ある程度矯正していかないと、真子さんにもいつか愛想を尽かされるかもしれませんよね。

確認しておきたいんですが、お母さんは真子さんに対しては悪い印象は無いんですよね。」

 

「はい、もちろんです。先日息子が持ってきた誕生日プレゼントに真子さんからの手紙が添えられてたんです。その手紙を読んで思わず泣いてしまいました。ホントに真子さんはいい子で、息子と結婚してくれたらそれはもう嬉しいですけど、他にもっといい人を探した方が良いんじゃないかしらと思ってるくらいなんです。あの子のホントの姿が分かったらきっと捨てられるんじゃないかって思って、ホントに心配で心配で…」

 

それを聞いていた私は、正に親の心子知らずだなーと思いつつ、それからも尚典さんやお父さんの様々な過去のエピソードを約2時間に渡って色々と聞かせて頂きました。

 

「僕もお母さんの心配は同感でして、昨日も掃除の事などこれからは心を入れ替えてやっていかないとダメですよ、ってお話させてもらってたとこなんです。でも、中々人間はそう簡単には変われませんからねぇ…。

 

お母さんのお話を聞きながら色々と考えていまして、僕からの提案なんですけど、尚典さんが心を入れ替えて人並に結婚生活をおくれるように作戦を考えたいと思うんですが、お母さんにも協力してもらってもいいですか?」

 

「はい、そういう事でしたらもちろん、こちらからもお願いします。なんでもしますのでなんでも言ってください」

 

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その日の夜、お母さんとの話し合いについて報告したいので鈴木さんには事務所に来てもらうようにお願いをしました。

 

私はいつになく神妙な面持ちで

「鈴木さん、大変申し訳無いんですが、お母さんとの話し合い。上手くいかなかったんですよ。申し訳ありません。」

 

と言って頭を下げました。

 

「えー。那須さんでもダメだったんですか!それじゃあ一体どうしたらいいんですか?」

と言って頭を抱えています。

 

「ただ、少しだけ光明があるんですが、ただちょっとねー。中々難しい話なのでどうかなぁ…」

 

鈴木さんは頭を上げて

「えっ、なんですか?歯切れが悪いですねぇ。どういう事なんですか?」

 

「いや、実はですね。ちょっと長くなるんですけど、経緯を話させて頂きますね。お母さんから昨日お聞きした話なんです。鈴木さんには話していない事らしいんですけど、鈴木さんの亡くなったお父さんとお母さんの事なんです。」

 

「えっ、お父さんがどうしたんですか?」

 

「お母さんとお父さんは尚典さんが産まれてすぐの時に一度、離婚の危機があったそうなんです」

 

「えっ、そうなんですか、初めて聞きました。」

 

鈴木さんは身を乗り出して興味津々の様子です。

 

「亡くなられたお父さんの事を悪く言うのは申し訳ないんですけど、お父さんはそもそも、性格的に自分勝手で自己中な所があったそうなんです。ギャンブルが好きで結婚後もお祖父さんに仕事を任せて、競馬やパチンコによく行ってたそうなんです。それで、家にろくにお金も入れてくれなくて、家の事はほったらかしで、尚典さんが産まれてからも、相変わらずそんな調子だったそうなんです。それで、お母さんがこのままじゃあダメだと思って、遂に離婚を決意して離婚届を置いて尚典さんと一緒に実家に帰ってしまったそうなんです。」

 

「えー!そうだったんですか!それで離婚を…ですか。でも結局離婚はしてませんよね。」

 

「そうなんです。その時にお父さんはお祖父さんに烈火の如く叱られて、お前が心を入れ替え無いんだったら、この会社にも要らないから出て行けって言われたそうです。尚典さんと一緒で元々素直なところがあったお父さんはすぐさま猛省をして、お母さんのところに謝りに行ったそうなんです。でも、お母さんはお祖父さんから簡単に許しちゃ直ぐに元に戻るから簡単に許すなって言われてたらしくて、中々許さないようにしてたそうなんですね。それで、お父さんがなんとかしなきゃと考えて『妻への誓い』という誓いを考えて、手紙に書いてお母さんに手渡して、もしこれからこの誓いを破る事があったらいつでも別れてくださいって言って頭を下げたそうなんです。それを見てお母さんも本当にこれを守れるんだったら大丈夫だろうという事で、お父さんを許して尚典さんと一緒に家に帰ってきたそうなんです。それからお父さんはその誓いを守って、心を入れ替えて真面目になってくれたそうなんですよ。」

 

「えー!そんな事があったんですか。全く知りませんでした。そうですか。お父さんてそんないい加減な人だったんですか…」

 

「そうです。それで、お母さん曰くその自分勝手でいい加減な、改心する前のお父さんと尚典さんが瓜二つなんですって」

 

「なんか、嫌な言われようですね…」

 

「お母さんは、別に我が儘で結婚を反対している訳じゃなくて、その改心前のいい加減でどうしようもない父親とそっくりな息子が、このまま結婚をしても、私がそうしたように、きっと真子さんも尚典と離婚する事になるんじゃないかって心配でしょうが無いそうなんです。ですから、真子さんやご家族に迷惑をかける事になるだろうからという理由で、反対というか、本当に大丈夫かなと心配されているんです。」

 

「うーん、そうですか…。そんなに酷いんですかねー。それで、さっき那須さんは少し光明があるって言ってましたよね。それはどういう事ですか?」

 

「ここからは、僕のアイデアなんですけど、お母さんは要するに尚典さんが心を入れ替えてさえくれれば安心して結婚を賛成してくれると思うんですね。ですから、それを示すしかないと思うんです。それが簡単な事ではないですから尚典さんができるかどうかなんですけど」

 

「…、…」

「実はお母さんに聞いてみたんですけど、お父さんが作った『妻への誓い』を尚典さんにも誓わせて、さらにこれから当分の間実家から仕事に通って、実家に帰ってからはトイレ掃除とお風呂掃除を担当して、更にお母さんに対して今までの感謝を述べつつ肩や腰を揉んで差し上げて、最終寝る前にこの誓いを改めて読んで肝に銘じる。という事を、もし尚典さんが実行できたとしたら、認めてもらえますか?って

そしたらお母さんは、それは絶対に出来ないから無理でしょう。万が一出来たとしたら、それはもう尚典のいいようにしてもらっても構いませんよ。って。」

 

と言って鈴木さんを見つめました。鈴木さんはいつものように斜め右下を眺めつつ沈黙しています。

 

「お父さんが作られた誓いはとても良い内容でしたよ。これが本当に実行できたら、結婚生活は幸せなものになると思います。実際お父さんはその誓いを立ててからはそれを守って、とっても幸せな結婚生活になったってお母さんも言っていました」

 

鈴木さんはゆっくりと頭を上げて

 

「分かりました。僕もお父さんがしたようにその誓いを守ります!でも、掃除や肩揉みは関係あるんですか?」

 

「大いにあります。覚悟を持って誓いを立てて、さらに掃除と肩揉みで目に見える覚悟をお母さんに示すんです。それもこれも、真子さんとお母さんが仲良くなって2人の幸せな結婚生活をおくる為です。ホントにできるんですよね!約束ですよ。さらにですね。肩を揉む時にお母さんに対して今までどうもありがとうございました。って心の中で何度も唱えつつ心を込めて揉んでください。いいですね」

 

「分かりましたよう。もうヤケクソです。何でもやりますよ。言う通りにやります!」

 

 

・・・つづく

 

 

ここに登場する人物は「マリッジカウンセラー那須」以外は全てフィクションです。